ステンドグラス制作動画の後半2タイトルです。
#3/4 ガラスカット編
#4/4 組み立て編
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ステンドグラス制作動画の後半2タイトルです。
#3/4 ガラスカット編
#4/4 組み立て編
水墨画で原画を描いた和風ステンドグラス「イチジク」は、構図を面白くするために、あえて葉の量を少なく描いています。500×1000mmの縦長構図でもあり、枝のひょろひょろ感を出したかったためです。
東京都の個人宅に納品されます。
※この作品の詳しい説明は、ステンドグラス工房達風サイトの作品集ページで。
ハンダ付けが終われば、一気に仕上げ作業です。仕上げと言っても、案外込み入ったプロセスがあります。
まず、きれいに洗浄です。ハンダの時塗布したフラックスを洗剤とお湯で洗い流し、ハンダは真鍮ブラシで磨き上げます。
次に、ハンダ線を黒く染めます。二酸化セレンと言う薬品を使って、化学反応で黒くします。ステンドグラス専用の薬品です。
そして、またまた洗浄。セレンを洗い流します。ステンドグラスは、洗浄を良くしておかないと、ハンダが後々錆びます。
乾いたら、補強枠の隙間に、パテを詰めます。これで、窓の密閉性が得られますし、ホコリも溝にたまりません。
最後に、防錆用のワックスを塗布して終了。
完成した作品の写真です。葉のグレーが効いていて、締まった絵になりました。オナガ(鳥)の尾も淡いブルーでかわいいです。
もう一度、原画も載せておきます。
工程は最終段階のハンダ付けです。ステンドグラスの組み方には、大きく分けて2通りあります。一つは伝統的にヨーロッパで培われてきた鉛線組み、もう一つは、アメリカと日本で盛んな銅テープ(ハンダ組み)技法です。ここでは、後者を使います。
コパーテープ部分に融けたハンダが付きます。その前に、ペーストフラックスを塗って、酸化膜を除去して、ハンダがのりやすくします。
ハンダは6-4ハンダと言われる、オーソドックスなものです。
表面のハンダが終わりました。
次は、同様に裏面のハンダです。
ステンドグラスには、表裏の違いが無い場合があります。この作品も屋内の扉に付きますので、表裏がありません。裏も、きれいに仕上げます。裏も終わったら、作品に強度を持たせるために四方に補強枠を付けます。これには断面がH型をした真鍮鋼を用います。
ステンドを囲み、4隅をハンダで止めます。ガラス板は、H鋼の溝にしっかりはめ込まれています。
これで、ハンダは終了です。すっかりステンドグラスらしくなりました。
数百個ものガラスピースの整形が終わると、次はステンドグラス専用の銅フォイル・テープをガラスの縁に巻いていきます。
銅テープは、5種類の幅のものを用意しておいて、ガラスの厚さや面積に合わせて、使い分けます。ガラスピースの切断面は、研磨機で荒らしてあるので、粘着面が良く着きます。
テープ幅は、ガラスの厚さより1mmほど大きいものを使います。ですので、表裏でそれぞれ0.5mmずつはみ出します。その部分は、表と裏に被せるように折ります。
この作業は、ある意味、ガラスカットより神経を使います。ガラスのカットした切断面は、多少汚くても下手でも、銅テープの中に隠れますが、銅テープの折り返した縁は、ステンドグラスの完成時にばっちり見えてしまいますから。
すべてのピースのテープ巻が、数日の作業で終わり、いよいよ組み立て段階です。ここではじめて、ピースを並べて、ステンドグラスの全容を見ることが出来ます。
組み立て用型紙の上に、ガラスピースを、ジグソーパズルの要領で並べていきます。
型紙には、番号が振ってあるので、組み立て用の台紙の対応する場所に置いていきます。
全部並べたら、組み立て(ハンダ付け)作業です。
全てのガラスピースのカットが終わり、研磨作業です。ガラスカットと言っても、実際は傷を付けて割っているので、周囲は鋭く尖っています。このままでは手を切ったり危険ですし、周囲に銅テープを巻くのですが、うまく着きません。そこで、ダイヤモンド砥石を回転させて、周囲を研磨するルーターを用います。
ルーターを使って、ピースの一つひとつ、周囲を研磨します。ぐるっと、一回なめれば終了です。鋭かった切断面は、研磨されて程よくざらっとした肌になります。
ヨーロッパのステンドグラス職人は、このルーターをほとんど使いません。ガラス同士をちゃんちゃんとこすり付けて、研磨は終わりです。日本とアメリカのステンドグラス制作者は、このルータを多用し、最終的な形状調整をします。
私の場合、ガラスカット時点で、型紙よりわずかに小さく切っているので、ルーターではほとんど形状調整が不要です。尖ったところを丸くするだけです。
注文制作の「イチジク」はここ数日、ガラスカットが続いています。
赤いガラスで、実の部分を表現し、3階調のグレーのガラスで葉と茎を表現します。
全体の90%のガラスがステンドグラス専用のアンティークガラスで、特に赤いストリーキーガラスが高価なものです。
また、ストリーキーは、赤の濃淡が流れ模様のようになっていて、とても美しいです。切るのがもったいないくらいです。
墨画風ステンドグラスの特徴は、ほとんどのパーツをグレーで表現するところにあります。葉の部分にもグリーンは一切使いません。
イチジクの葉は、切れ込みが大きく、細分化しないと切れません。
写真左側のコンテナに入っているのが、切り終わったパーツです。型紙とガラスピースを1対1対応で重ねて、管理します。
もう10年近く前の事ですが、地元龍ヶ崎にあるガラス工場「カガミクリスタル」を見学しました。ここは、日本芸術院賞を受賞し、日展参事でもあったガラス作家・故各務鑛三(かがみ こうぞう)氏が興した日本初の本格的なクリスタル会社です。広い敷地内では、多くの職人達が、クリスタルのコップや花瓶、お皿を伝統的な吹きガラスで成型し、切子やグラビールといった研磨技法で装飾し、素晴らしい作品に仕上げていました。ここは、昔で言う宮内庁御用達でもあります。
古来ガラス製品の多くが、カガミクリスタルと同じ吹きで作られてきました。これは、長い鉄管の先に高温で水飴のようになったガラス塊を付け、管のもう一方の端から息を吹き込んでガラスを膨らませる技法です。食器類はもとより、大きな板ガラスもこの方法で作られてきました。そしてヨーロッパには、今もこのアンティークな技法でステンドグラス用板ガラスやお城の窓ガラスを作っている工場がわずかに残っています。
平成12年に、そんな工場の一つフランス南部のサンゴバン社を訪れました。腕っ節の強そうな職人が、長さ二メートルくらいの鉄管を操り、直径50センチ、長さ1.5メートルほどの巨大な円筒状の瓶を吹き上げていました(写真1)。実は私も吹きガラスを体験したことがあります。普通に吹くとガラス風鈴のように球状に膨らむだけなんですよね。しかも、管とその先についたガラス球が意外に重く重労働です。彼らサンゴバンの職人は、管をくるくると回転させながら見事にきれいな円筒状に膨らましていました。次の工程で、この瓶の頭とお尻の部分を切り落として筒状にし、これを開いて板ガラスにします。出来上がったものをアンティークガラスと言います。
吹きで一枚一枚手作りされたアンティークガラスはそれ自体が芸術品です。ステンドグラス制作者は、その芸術品に傷を付け、切り刻み、再度組み合わせて新たな作品にします。ゆめゆめ、板ガラスが本来持つ美しさを損なうこと無きよう努めます。