フュージング画とは

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【1.絵画性の追求】

 私(福田勝司)は、画家になる思いで、硝子工芸家になりました。
 一口に画家といっても、表現手法(画法や画材)は様々です。 油彩画や日本画、水墨画、CGなど。その中から、私はステンドグラスを選びました。 工芸の要素も含み、工作好きで、工学部出身の私には、なお面白い対象でした。 しかし、絵画性の追求、特にリアリティの追及には、足枷となる要素が有ります。 それは、ステンドグラスの最大の特徴であり、魅力でもある、ガラスピースを繋ぐ金属線です。 名著「ステンドグラスのパネル技法」:美術出版社の著者、スティーブ・A・メロー氏は、その本の中で、 「これらの線は魅力的で、ステンドグラスの色なしでも美しく見えなければなりません。」と書いています。 私もまったく同感ですし、金属線を邪魔者扱いするのであれば、 ステンドグラス制作など止めてしまえばよいのです。

フュージング画「おなが」
墨画風フュージング画「オナガ」

 しかし一方で、私は水墨画もやっています。この絵の特徴のひとつは、即興性、偶発性です。 これは、計画絵画ともいえるステンドグラスにはまったく無い要素です。 何とかそれを取り入れてみたい、と思っていたことも確かです。 版画家の巨匠、棟方志功氏も、やはり計画絵画の版画に激しい即興性を採り入れました。 そこで私が思いついたのが、フュージング画です。 ガラスを窯で融かして混色するガラス・フュージングとステンドグラスのグリザイユ絵付けを融合した ものです。
 世界は広いです。私と同じ思いで、同じような方法で硝子絵画を描いている人は、恐らくいるでしょう。 しかし、私は私自身の造語でもある「フュージング画」を独自の画法として、研究しています。

フュージング画「ストレリチア」
色彩を追求したフュージング画「ストレリチア」

【2.無鉛ステンドグラス】

 実は、フュージング画の開発には、以前から取り組んでいた無鉛ステンドグラスの追求が関わっています。
 ご存知のように、ガラスピースを繋ぐ金属線は、鉛か、半田です。 半田は鉛と錫の合金ですので、いずれにしても有毒な鉛を使っているわけです。 もちろん、鉛の毒性はそれほど強くは有りません。古くは水道管や白粉に使っていたくらいですから。
 しかし、有毒であることには変わり有りません。誤って口にするか、長く皮膚に触れていれば健康を害します。 ですので、伝統技法とはいえ、いずれは姿を消していく材料だろうとは思っています。 そこで、先手を打って、鉛や半田に代わるものを模索していたのです。 簡単な解はあります。少し高価ですが、無鉛半田を使えばまずは落着です。 しかし、私は代替材料ではなく、これをきっかけに新しい工芸を作り出したいと思っていました。

エルム・ボルドー氏の事務所にて
エルム・ボルドー氏の事務所にて

エルム・ボルドー氏の前衛的なフュージング作品
エルム・ボルドー氏の前衛的なフュージング作品

 この解の一つがフュージングに有りそうだとは、うすうす感じていました。 その思いを後押ししてくれたのが、2007年、フランスにステンドグラス視察旅行に行った折り、 レンヌという町で出会ったムッシュ・エルム・ボルドー というステンドグラス作家です。
 プライドが高く保守的と思っていたフランスの作家が、アメリカ発の新しい技法 フュージングを積極的に取り入れている姿に触れたからです。 「なにをやってもいいんだ」と正直思いました。 帰国してから、その実現に向けてひた走りました。 もちろん彼の真似をするのではなく、フュージングのエッセンスを取り入れた、独自の工芸を編み出す取り組みです。

【3.専用電気窯の開発】

 最初にネックになったのは、電気窯です。 私の場合、フュージングといっても、立体作品を作るわけでな無いので、 出来る限り広い底面積の平板専用の窯が欲しかったのです。 しかも、一般家庭に引かれている単相200V/20A以内で十分な性能が出るものを。

製作中のフュージング画専用電気窯
製作中の電気窯

フュージング画専用電気窯のプロコンの配線作業
プロコンの配線作業

出来上がった電気窯でフュージング「枝垂桜」の焼成
出来上がった窯で「枝垂桜」の焼成

 これまた、うすうす感じていましたが、商社経由で見積もりを取ったら200万円でした。 無理です。ですので、すぐに自作の計画を立てました。そして、1ヶ月ほどで完成させました。 主たる材料は、耐熱煉瓦とセラミックファイバーボードです。発熱体はニクロム線。 コピュータ・コントローラ(プロコン)も付けました。 実は何を隠そう、私は高校2年から8ビットマイコンを制作していた電気制作マニア、所謂元祖マイコンオタクなのです。 あまり難しい仕事では有りませんでした。しかし、勉強にもなりました。特にセラミックファイバーと 耐熱モルタルについては。
 こうして、最大51cm×85cmの板が焼ける窯が完成し、制作を始めました。

 電気窯の制作の詳細は、 ブログの「電気窯制作カテゴリー」に詳しく載っていますので、ご覧下さい。

【4.フュージング画の技法】

 フュージング画の技術的特徴は、ベース板に色ガラスを載せ焼成して着色することと、 筆とグリザイユで絵を描き焼成することを、繰り返し行うことです。 ベース板は、通常厚さ3mmか4mmのクリアのものを使います。 フュージングでは、使うガラスの膨張係数は全て同じにしなければなりません。 でないと、冷えたとき、割れてしまいます。メーカーも同じ方がよいです。 私が使っているのは、ブルザイ社のフュージブルシリーズで、膨張係数は 90×10-7というものです。

薄板技法で作るフュージング画「枝垂桜」の花弁
薄板技法で作る「枝垂桜」の花弁

パウダー技法で広範囲に着色
パウダー技法ふるいで広範囲に着色

 色ガラスを載せる方法には、大きく分けて2通り有ります。 詳しくは、次章の「制作工程」をご覧頂きたいですが、 一つは薄板技法で、もう一つはパウダー技法です。 薄板技法は、厚さ1.6mmの板ガラスを切って、ベース板に着けます。 表の場合もあれば、裏面に着ける場合も有ります。 いずれにしても、その部分はレリーフのように盛り上がり、光を受けてハイライトの線が映し出されます。 彫刻のような仕上がりになります。
 パウダー技法は、ベースガラスの上にガラスパウダーを茶漉しや篩いでふったり、水で練って 小さなコテで載せます。これをそっと窯に入れ焼成します。仕上がりは、薄く、グラデーションが可能です。 パウダー技法は、ちょうどガラス胎七宝を巨大化させたイメージです。
 この他にも、融けたガラスをピンセットで摘んで引き伸ばして、細い棒を作り、 枝や蕊(しべ)に利用します。

グリザイユでの線描き
グリザイユでの線描き

フュージング画「枝垂桜」の完成品
フュージング画「枝垂桜」の完成品

 グリザイユは金属粉とガラス粉でできたとても歴史の在る顔料です。 これを水で溶き、和筆でガラス上に、線や面を描きます。この時、即興性を活かすことができます。 色は、黒、茶、白、青、赤、など様々ですが、主は黒です。 ガラスの上に線描きしたり、面で塗りますが、間違えたら雑巾ですぐふき取れるので、何度も 描き直す事が可能です。ですので、緊張せず、伸び伸びと活きた線を描くことができます。
 ある程度描いたら、まめに焼成して定着させます。 770℃の高温で、フュージングを兼ねて焼成するので、比重の重いグリザイユの粉末は、ガラスの内部に沈降します。 ですので、表面はガラスの膜に覆われ、艶やかです。
 色ガラスの融着とグリザイユの定着を、数回から数十回繰り返して、満足のいく出来栄えになったら、完成です。 色も絵も、足し算はできますが、引き算(消すこと)が出来ないので、慎重に重ねていくことが肝要です。 また、焼成を繰り返すと、初期に載せた板ガラスはだれて来ますので、エッジを残したい部分は、最後の方に載せて 焼成します。

フュージング時の温度履歴
フュージング時の温度履歴

 焼成時の温度履歴は上図のとおりです。フュージングに限らず、ガラスのホットワークで大切なことは、 ゆっくり冷やすことです。これを徐冷といいます。加熱時は比較的急加熱に耐えますが、薄板技法の板を貼った時など、 厚みに不均一がある場合、加熱時も割れが発生じやすいです。作品中の温度分布にムラが生じるからです。 ですので、作品の大きさや厚さの不均一さに応じて、加熱時間を長めに変更したりします。
 徐冷の際、2回の温度キープをします。私の場合は、530℃と490℃です。 両者とも、ブルザイ社が提供している資料の徐冷点といわれる温度です。 フューザブルガラスは、膨張係数は一致していますが、徐冷点は、透明ガラス、オパールセントガラス、 ストライカーガラスの3種類で異なります。ですので、キープが複数回有るわけです。

 硝子工芸全般に言えることですが、非常に理系的です。 ガラスという扱いにくい素材を相手に、科学的根拠に基づき、制作工程を練る必要が有ります。 しかも、美術的に優れたものにすると言う大命題も別に在ります。 ですので、紙やカンバスに描く絵よりも、面白いと私は思います。


フュージング画の制作工程

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 当工房オリジナルの技法、フュージング画の制作工程をご紹介します。

 《1》フュージング画のモチーフのスケッチ

公園に咲いていた藤の花を写真に撮ってきて、水墨画で描いているところ 庭に咲いた薔薇を切ってきて、水墨画で描いているところ

 フュージング画は、ステンドグラスの制作に並行して、環境に配慮して鉛を使わない 技法は無いだろうか、と模索する中で生まれました(半田は、錫と鉛の合金です)。 私にとってフュージング画の位置付けは、無鉛ステンドグラスなのです。

 フュージング画は、ステンドグラスより絵画的です。そして、原画に忠実に制作することが可能です。 計画絵画であるステンドグラスに対して、フュージング画は、即興絵画の要素も併せ持っています。

 その即興性を生かすために、私は多くの場合、フュージング画の原画は、水墨画で描きます。 青墨を磨って、勢いのある線質を大切にしながら、描きます。

 《2》フュージング画の原画と型紙

水墨画として完成したフュージングの原画「藤」

 ステンドグラス同様、モチーフの写生は欠かせません。 動植物の命を写し取るという作業は、結果的に面白い作品に仕上げることに繋がります。

 出来上がった原画は、それ自体水墨画として完成されたものにします。 私は観て下さった方から「硝子工芸だから、絵は多少マズくても仕方ない」と思われることを、 最も戒めています。

 そして次の段階から、この原画を、ガラスならではのクールな艶を付加したフュージング画に昇華させます。

 《3》鳥と木部の描きこみ

フュージング画の特徴、黒のグリザイユで、鳥の羽根を描き込み

 フュージング画は、水墨画で使う和紙に相当するものに、厚さ4mmのベースガラス(色はクリア)を使います。 このベースに予め白のオパールセント(乳白)ガラスのパウダーを振り掛けて焼成しておきます。

 この和紙に見立てたベースに、次に鳥の部分のガラスを融着させます。 具体的には、厚さ1.6mmの薄板ガラスを、鳥の形に切り抜いて、ベース上に載せます (写真のアンバーとグレーの部分)。 電気窯で、最高温度780℃で、約1日掛けて焼成します。

 冷めたら、黒のグリザイユを水で溶いて、和筆で羽根を描き込みます。 そして、今度は625℃で焼成して、グリザイユを定着させます。 グリザイユは伝統的なステンドグラスの画材で、金属粉とガラス粉を原料としています。これを水や酢で溶き使用します。 グリザイユの色は、黒以外に、こげ茶、白、赤、青などあり、状況に応じて使い分け、混色もします。

 《4》木部や葉の描きこみ

フュージング画では、フリーハンドで木部を生き生きと描き込み フリーハンドで葉、小枝を描き込み

 同じくグリザイユを使い、原画を見ながら、フリーハンドで木部や葉、小枝を生き生きと描きこみます。

 お手本である原画を見てはいますが、あまりそれに囚われることなく、かすれやにじみなど、即興性を 出して描きます。この即興性こそが、フュージング画の醍醐味です。

 そしてまた、625℃で焼成して、グリザイユを定着させます。

 グリザイユは一度焼成してしまうと、その重みでガラス表層に潜り込み、後から消すことができません。 ですので焼成前は、これでOKと思える絵になるまで、濡れ布巾で消しては描き、消しては描きを繰り返します。

 《5》型紙取りと木部のカット

トレーシングペーパーに写し取り フュージングする木部のカット

 冷めた後、ライトボックス上で、先程フリーハンドで描いた木部の輪郭を、 トレーシングペーパーに写し取ります。 ここで初めて型紙が作られます。以後この型紙を用いて、木部のガラスを切り出します。

 木部はレリーフのように立体的に盛り上げたいので、グレーの薄板ガラス(厚さ1.6mm)を ベースに融着させます。

 先程のトレーシングペーパーの型紙をライトボックス上に置き、その上にグレーの薄板ガラスを置き、 型紙の線を頼りにガラスカッターとプライヤーを使い、切り出します。

 《6》仮止め

木部のガラスを、ベースの裏面に、接着剤を使って仮止め フュージングする花弁も、表面に仮止め

 切り出した木部のガラスを、ベースの裏面に、接着剤を使って仮止めします。 なぜ裏かと言うと、表はグリザイユのデリケートな絵が描かれているので、これを冒したくないためです。 また接着剤は、焼成時に燃え尽きてなくなります。

 藤の花弁も、紫の薄板ガラスを切って作り、これは表面に仮止めしていきます。

 《7》パウダー技法

パウダーを茶漉しで振りかけるパウダー技法

 絵画の絵の具に相当するものが、フュージング画では色ガラスです。
 古来、ガラスに彩色する手段として、エナメル彩色が行われてきました。 しかしエナメルには独特のくすみと、酸への腐食性があります。

 フュージング画では、ガラス特有の耐久性、そして透明感と艶、立体感を持たせるために、 ベースガラスの上に色ガラスを融着させます。
 この融着には、作品「藤」では使用しませんでしたが、 ガラスパウダーを茶漉しで振りかける方法もあります。 フリーハンドで振り掛けるときと、ボール紙でマスキングして、くっきりとした輪郭を出すときが有ります。

 色ガラスを融着させるこの工程は、従来のグラス・フュージング(フューズド・グラス)に当たります。 この融着させる方法として、(1)薄板技法と、(2)パウダー技法とがあります。

 《8》焼成(フュージング)

フュージング画専用電気窯を使っての焼成作業

 フュージング画は、グリザイユ絵付けと定着、色ガラスの融着の繰り返しで作られて行きます。 その回数は10回以上になることもあります。 この定着と融着を行う手段が焼成です。焼成時の最高温度は、グリザイユで625℃、ガラスで770℃です。
 達風では、フュージング画専用の平面窯を自作し、使用しています。 出力4kw、最大の焼成面積は85cm×51cmです。
 焼成の加熱・冷却プロセスは、手動ではなく、コンピュータにプログラミングして、全自動で行います。 何故ならば、1回のプロセスの温度履歴は複雑ですし、長くて12時間ほどかかるので、 とても人間が張り付いて行えるものではないからです。
 ガラスはゆっくり冷やすほど(徐冷といいます)、硬く丈夫になります。 また、ベースの大きさや、融着させるガラスの厚さや分布により、過熱時間、徐冷温度、徐冷時間も調節します。 その時間と温度設定は、試作で導き出します。

フュージング画「藤」

 完成しました

 ガラスやグリザイユを、もうこれ以上足さなくてもいいなあ、と感じたら完成です。

 1日に1回の焼成しかできないので、約2週間かけてフュージング画「藤」が出来上がりました。

 2通りの飾り方


フュージング画の飾り方はいろいろ

 フュージング画は、窓辺に飾れば、外からの透過光でステンドグラスのように輝きます。 また、白い壁の前に飾れば、室内の反射光で絵画のように楽しめます。

2つの表情を見せてくれます。

「藤」の原画制作の過程を動画でご覧いただけます

(11分30秒)