ステンドグラス制作者の「ぎやまん草子(その15)」 「塾」

四十路を過ぎてもアルバイトをしていました。ステンドの制作業だけでは食べていけず、夜間、学習塾の講師をしていました。

三年間受け持った中学生のクラスには、お人形さんのように可愛いらしい女生徒がいました。流石に特別な感情は抱きませんでしたが、同級の男子達にとってそのAさんは憧れの的であることは想像に難くありませんでした。現に「センセー知ってる?B君とC君はAさんのこと好きなんだよ。次の休み時間よく観察してみな」などと、やっかみとも取れる情報をもたらす生徒もいました。

ここからは、私の中学時代の想い出です。目鼻立ちがはっきりしているのに少しアンニュイな表情が魅力的なM子という女子に、僕は一年生の時から片想いをしていました。しかし滅法奥手、しかも連日ツッパリグループにいじめられていた格好悪い僕は、クラスも違うM子に一言も話しかけられずにいました。ただ部活のランニングの時、テニス部の練習場に彼女を見つけられた日は、ささやかな幸せを感じることができました。

ところが、こんな僕にもチャンスが巡ってきたのです。二年生から、親が勝手に決めた英語塾に通うことになりました。塾である民家の一室に渋々行ってみると、数名の塾メイトの中になんとM子がいたのです。週に三回、M子と肘が触れ合うほどの距離で勉強できる。それだけで塾に通う価値十分でした。しかし大馬鹿者 福田少年、思いの丈を伝えることはついに一度もありませんでした。塾の後、星空の下でビートルズや音楽のことなど遅くまでぺちゃくちゃお喋りしていたにもかかわらずです。

さて現在に戻ります。学習塾は、世間で言われているほど殺伐とした所ではありません。違う学校の生徒同士が数年間苦楽を共にする第三の社会です。悩み、喜び、疲れ、希望などを織り交ぜながら青春ドラマを繰り広げています。おい少年たち、勇気を出して告白してみたらどうだ。きっと素敵な想い出になるぞ。

石楠花

バイトをしていたH17年に制作した「石楠花」、サイズ:横75cm×縦80cm

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