ピアノの楽曲で有名なフレデリック・フランソワ・ショパン(1810~49)は、ポーランド出身の人です。ポーランドはたびたび他国から侵攻され、地図上からその名を幾度となく消した不幸な国です。ショパンがパリで活躍していたころも、その亡命政府はパリにありました。ショパンの父や友人は祖国で抵抗運動をしており、亡命生活の彼は忸怩たる思いで作曲活動を続けていたようです。
彼の作風は全体的に繊細。虚弱で結核で夭折した点、スカーフや手袋をいつも着用していたという貴族趣味から、線の細い弱々しいイメージで語り継がれています。一方で、饒舌でユーモアに富みエネルギッシュな人だったとも言われています。相反するようですが、若くして才能を花開かせる「天才」は、アンバランスな精神と、強大なエネルギーを持っていると思います。
以前、とある楽器店の依頼でステンドグラスを制作するとき、資料を集め、私なりの「人間ショパン」像を作り上げました。作業中ショパンの曲をかけていましたので、とても好きになりました。特に「英雄ポロネーズ」「ノクターン作品9」「幻想即興曲」など。
満たされない思いを秘めたショパンの顔と、演奏中の手をグリザイユで書き込み、絵画風に仕上げました。特に、震えるように繊細な指は、私の想像の産物です。享年39。「もっと生きたかった。もっと書きたかった」と訴える彼の魂の叫びを表現したかったのですが。