ステンドグラス制作者の「ぎやまん草子(その24)」 「フュージング画」

職業を尋ねられれば「ステンドグラス制作業」と答える私ですが、今作っている作品の大半はステンドグラスではありません。「フュージング画」と名付けた、独自の技法で描く、ガラス絵の一種です。

新しい技法を始めることになったきっかけは、平成19年の冬でした。『全く新しい方法、見地を確立しなさい。このままでは現状のままですよ。』との、あるアドバイスが始まりでした。ただ前前から、死ぬまでに独自の工芸技法を編み出したいものだとは、密かに思っていました。死んだ後も他人に受け継がれ、語り継がれるナニカを残すことは、永遠の命を得ることと同じです。これは、もの作りをする私にとって、最大の夢でもあります。まさにアドバイスに、背中を押して頂いた格好になりました。

その後すぐにフランスに行く機会があり、そこでヒントをもらいました。レンヌという場所の先進的なステンドグラス工房を見学した折り、一畳ほどもあるガラスを融かすための特異な形の電気窯と出会いました。帰国後、早速その窯を一回り小さいサイズで自作し、以前からやりたかったフュージングから始めました。フュージングとは「融合」という意味で、色々な色のガラスを高温で融合して、皿やオブジェを作るガラス工芸の一種です。この技法自体は目新しいものではありませんが、私はそこに墨画のエッセンスを取り入れることを思いつきました。

墨画の醍醐味のひとつに、即興性と偶発性があると思います。図面どおりに制作を進めるステンドグラスには無い要素です。グリザイユという金属の粉で出来た顔料を水で溶き、和紙に見立てたガラス板の上に、和筆で伸び伸びと絵を描きます。これを窯で焼き着け、さらに色ガラスの薄板や、ガラスパウダーを絵に合わせて盛り、繰り返し高温で焼き着けます。時々、筆で描きこみ、また焼く。私はこの技法を「フュージング画」と名付けました。

フュージング画は、最近、ようやく形に成り出しました。しかし現在のレベルは、墨画とガラスが単に出遭っただけで、例えて言うなら、1プラス1が2になっただけです。新しいナニカを生み出すとは、1プラス1が、3や5や10にならなければなりません。作り手のインスピレーション(霊性)が加わり、化学反応を起こさせなければならない、ということだと思います。
『全霊をもって臨め。正に作品は己の分霊(わけみたま)だ。』というアドバイスも頂いています。魂を込めた作品への挑戦は始まったばかりです。

フュージング画「柳と鹿」

フュージング画「柳と鹿」

フュージング画「三峯寒行」

フュージング画「三峯寒行」

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